よく質問を受けます。版画は何枚も刷れるから、この作品はどれくらい同じのがあるのか。むずかしい話。日本の浮世絵や西洋の木口木版は現在の雑誌印刷とおなじ。原画の絵師、彫り師、刷り師と分業されてきましたが、現代の芸術作品はこの工程を一人でこなすのが原則。そこで「エディション」というナンバーを記すのが東西の決まりです。35/100などという数字が欄外左下にサインされます。100枚刷りました。そのうちの35枚目ですよ、という作者の記号です。困ったことに例外があって、関係者を悩ます世界的な巨匠がいます。棟方志功。
どの作品も独立した一点ものである、という自説です。棟方さんは、表からや、裏彩色という技法をそれぞれに施すのが特徴。たしかに同じ作品ではありません。そのため画商や美術館、研究者を困らせます。ちなみに現在、福光美術館に展示中の雪梁舎コレクションの名品「群生の柵」は2点のみ刷られ、うち一点は表具を貼り間違えしていますので、事実上この1点ということになります。画集などで紹介されていても、この実物を見た人はごくわずかな限られた方だけでした。